WordCamp Asia 2024に参加しました
こんにちは、立花明です。はじめまして。
東京のIT系会社に勤務し、余暇にWordPress Documentationチームの一員としてヘルプの整備やGutenberg系の翻訳をしています。2023年からは、タロスカイの「Five for the Future」(後述) のサポートを受け、海外で開催されているWordCampに参加しています。
今回は3月7日から9日にかけて台湾の台北で開催されたWordCamp Asia 2024についてレポートします。
WordCamp Asia 2024
WordCampは、WordPressのユーザーや開発者が一同に介するイベントです。日本でも定期的に開催されていて、直近では2月24日に神戸でWordCamp Kansai 2024が行われました。WordCamp AsiaはそうしたWordCampの中でも、WordCamp USやWordCamp EU と並ぶフラグシップのグローバルイベントで、開催は昨年のバンコクに続き、2回目。3月7日〜9日の3日間、初日はコントリビューターデイ、2日目、3日目がセッションデイでした。会場は台北101の隣の國際会議中心で、玄関口には大きなパネルが設けられ、天井からの美しい飾りつけが参加者を迎えます。
コントリビューターデイ
初日のコントリビューターデイは、参加者全員がWordPressへの何らかの貢献活動を行う一日。コア、デザイン、ドキュメント、コミュニティ、サポート等、いくつかのグループに分かれてそれぞれで、初心者向けの入門やQ&A、対面でなければ難しい課題の解決に努めます。
私はドキュメンテーショングループのリード役の一人として、事前の準備と当日の支援を行いました。
- WordPress.orgやSlackのアカウントのセットアップのガイド
- 課題の探し方の説明。GitHub上にラベル「good first issue」(初心者向け)が付いています。
- 提案された原稿のレビューと公開
ちなみにWordPressのドキュメント整備では、日々こうした作業を行っています。スクリーンショットや動画の更新、ALTタグの挿入、新しいバージョンでの機能説明の追加、古い説明の削除等、様々なタスクがあります。興味のある方は是非、上のリンクから課題一覧を眺めてみて、よければお手伝いください。わからないことはWordPress コミュニティの Slack の docs チャンネルで尋ねられます。直接私への問い合わせでも構いません!
今回のWordCamp Asiaでは新しい試みとして、何でも相談室的な場所が用意され、初心者を放置しない試みが行われました。また通常は巨大な会場で大勢が集まり、雑然としたムードになりがちな所を、コア関連グループを集めた部屋、デザイン関連グループを集めた部屋と分け、通常はダレる午後の時間にも、良い緊張感を作り出していました。
なお、コントリビューターデイのオーガナイザーは、タロスカイのToru Mikiさんでした。
ウェルカムパーティー
コントリビューターデイ後、主催者、スタッフ、ボランティア、スピーカーが招待されるウェルカムパーティーがSuper 346啤酒文創館にて行われました。
国内で開催されるWordCampも含め、通常ボランティアとして参加すると入場チケットを無料でもらえる上に、こうしたパーティーに招待されたり、記念品をもらえる場合もあります。今回も大勢の日本人スタッフが参加していました。興味のある方は是非、応募を検討してみてください。
セッションデイ
2日目と3日目はセッションの日。最大5つの会場で並行して、WordPressの機能や将来動向、キャリア形成など様々なカテゴリーのセッションが行われました。
オープニングのキーノートはHumanMade代表のNoel Tockさんによる「The Future of WordPress」。
前半はWordPressの市場シェアが頭打ちになっていることと合わせて、Googleの検索数や新規に公開されるサイト数が減っているグラフが重ね合わされ、「WordPressはオワコンなのか?」という前振りで始まります。
しかし、次のS字カーブの候補としては、別のCMS製品やサービスが挙げられるところをNoelさんは否定し、従来の「Monoritihic」な WordPressから統合を前提とした「Composable」なWordPressへの進化が重要と主張しました。WordPressの真の力を引き出すことこそが求められているのだと。
「統合」の観点では、WordPressをドキュメントリポジトリとして扱う、ヘッドレスCMSの考え方は一つの方向性を示しているのかもしれません。2週間前にWordCamp Kansai 2024の実行委員長を務めたばかりの岡本秀高さんのセッション「Journey of 5 Years with Headless WordPress: Evolution, Challenges, and Opportunities」は、長年に渡る研究と試行の歴史を広く深く、しかもテンポよく紹介したもの。学びが自分の幅を広げるという言葉が印象的でした。このセッションは非常に多くの観客を集め、質疑も熱く行われました。
自分史を振り返りながら、どのようにコントリビューションを促進できるかを様々な面から紹介したのが、高野直子さんの「Insights from WordPress Contribution: What Makes Us Impactful」。中ではタロスカイも参加している「Five for the Future」についての説明もありました。
Five for the Futureは、継続的なWordPressの発展のため、会社や組織がリソースの5%をWordPress開発に貢献することを奨励する活動です。WordPressを使用してサービスを提供している会社が、社員の業務としてのコントリビュート活動を承認するケースがほとんどですが、社外のコントリビューターを援助するケースもあり、私はこちらに該当します。ありがとうございます。
ちあきさんが参加されていたのが国際女性デーに絡めたパネルディスカッション「Shaping the Future with WordPress Women」。3人それぞれのキャリア形成や途中で苦労した話しは興味深く聞けましたが、会場の台湾の方のコメントは直接的で重く、こうした場を設けただけでも意味があることを実感しました。
個人的に一番良かったセッションは、Alain Schlesserさんの「Redefining Code Quality: A Journey Towards Bug-Free Development」。内容はタイトルから想像されるプログラミング技法的なものではなく、ビジネス全般にも適用可能な汎用「バグフリー」の話し。
わずかなコミュニケーショミスから多額の損失が発生したミッションを紹介した上で、問題、プロセス、解法のすべてを疑い、assumption(仮定)を止め、assertion(型チェック等のアサーション)を重視することを解きます。
セッション後の質疑応答では、曖昧な顧客要求への対処方法について、質問を繰り返してドリルダウンし、要求の本質を把握するようガイドし、それを文書化して証跡とすることを勧めました。
セッションを通して繰り返されるコミュニケーションと文書化の重要性にうなずきながら拝聴するセッションでした。
2日目最後のセッションにはWordPressの共同創業者が「Matt Mullenweg Q&A」として登場し、会場からの様々な質問に答えました。
最初の質問者のMillanaは毎回、WordPress財団がコントリビューションしている人間に援助して欲しいと主張しています。それに対してMattさんはまず応募してみて、採用されたらその後、相談してほしいと。同様に、ビザ取得の困難さを訴えた質問者にも、まずは相談して欲しいと伝えます。これは他の様々な課題についても同様でした。ただ、「WordPress.comは紛らわしいので名前を変えて欲しい」という厳しい意見には検討するだけでしたが…。
セッションの最後では、Mattさんの毎年の所信表明「State of the Word」が2024年12月16日に東京で開催されることがアナウンスされました。楽しみです。
スポンサーブース
会場内のスポンサーブースで大きなエリアを占めていたのはおなじみの顔ぶれ。JetpackやWooCommerceの他、bluehost (買収したYoastと一緒に) や GoDaddy、Hostingerなどのホスティング会社、ビジュアル制作ツールのElementor。Googleはクッキーの代替であるPrivacy SandboxとSite Kit、Search Consoleの紹介でした。WordPressコンテンツを自動で翻訳してくれるWeglotが、比較的大きなブースを出していたのも多言語のアジアならではかと。
その他のブースでは、WooCommerce等の顧客管理を外出しで処理するOmnisend、コンテンツをNFT化するWeb3Pressが記憶に残ったくらい。CDN等を組み合わせて高速化したり、セキュリティを高めるサービスをよく目にしました。
アフターパーティー
WordCampの締めはアフターパーティ。MAJI MAJI集食行楽の奥のエリアを借り切り、バンド演奏や飲み物、食事を楽しみました。
WordCamp Asia 2025
クロージングにて次回のWordCamp Asiaがフィリピンのマニラでの開催が発表されました。
今回のWordCamp Asiaには本稿でも紹介したスピーカー以外に、大勢のオーガナイザー、ボランティアが日本から参加していました。参加するだけでも楽しいイベントですが、中の人として参加するとまた別の楽しみもあります。少しでも興味を持たれた方は定期的にサイトをチェックしてみてください。すでにオーガナイザーの募集は始まっており、順次、スピーカー、スポンサー、ボランティアの募集が行われる予定です。